* 「海潮音」

2008/12/02 | Filed under | Tags .

 

来年の春に刊行される予定の本のために,春の間にしておいたスケッチ。今,このスケッチをもとに絵本の原画を描く作業を毎日つづけています。カレンダーもそうですが,絵本も一つのまとまりでボリューム感があるので,ひとつひとつ山をのぼって行く時のような趣きです。

絵本の中に引用した詩の掲載確認を編集部にお願いするために,原典になる本を引っぱりだして来ました。そのうちの一つは,上田敏「海潮音」(新潮文庫)。

改めて読み返してみると,ん〜〜良い感じで和みます。この詩集は,明治30年代の出版で,ドイツ,フランス,イギリス,ベルギーなどの詩を上田敏が選んで訳したものです。たとえば,収録の有名な詩のひとつは,ヴェルレーヌの「秋の日の ヴィオロンの ためいきの・・・」というもの。上田敏がその頃出始めていた新しい詩に深い精神性が欠けて表面的になりすぎていると考えて,彼の考えるその「精神性」がよく表現されている西洋の詩を紹介することで,問題提起をしたいと思って出版したそうです。

そして,あえて古風な七五調を使ったり,古語をあてはめたりして訳されているのは,内容の新しさを強調するために意図的にしたことだそうです。たしかに,わざと古風な訳になっていることで,「祇園精舎の鐘の声・・・」などと同じように聞こえるのですが,それだけに唄っている内容の違いが際立ちます。どこが違うというと,それまでの日本の古典ではなかったような,こまやかな心理描写などが唄われている点ではないかと思います。今となっては,ごく当たり前のようですが,それら外国の詩に唄われている内容の新鮮さ(当時の日本人にとっての)が,より強く伝わったのではないでしょうか。その後に出て来た北原白秋などの詩人に,大きな影響を与えた本だったそうです。



Comments are closed.