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* アーロン収容所 

2010/07/17 | Filed under | Tags , , , .

昔、父の書棚から出して読んで、断片的にそのおもしろさを覚えていた本が、去年、中公文庫から再刊行されました。

著者の会田雄次さんは、もう鬼籍に入られていますが、京大の人文研に長く勤められた西洋歴史学の研究者。戦時中、軍に召集されて、ビルマに送られ、敗戦と同時にイギリス軍の捕虜になられました。捕虜として収容されていたビルマの捕虜生活の思い出をつづった本です。

花輪和一さんの、映画にもなったマンガの名作「刑務所の中」というのがありますが、この「アーロン収容所」も、それに類するおもしろさです。会田さんが所属していたのが京都で召集された部隊なので、切迫していてさえもどこかおかしみのある関西弁の会話(まわりを英軍に囲まれ、突撃して玉砕すると言ってきかない若い将校に、30すぎの「オッサン」の兵士が、「アホいいな、まだ大丈夫や、ひこ、ひこ。(退こう、の意味)」と声をかけてるとか)、捕虜になった兵たちが、英軍倉庫から「ちょろまかして」きた粉でまんじゅうを作ったり。兵士は、いろんな職業の人がいるから、何でも作れるのだそうです。それで、まんじゅうを作っている小屋には、ぼろ布を仕立て「まんじゅう」と書いた暖簾まで下がっていたとか・・・

こんなことばかりを書くと楽しそうですが、本の中味はそれが全てではなく、会田さんは、この経験を通じて、イギリス人や西洋の文化を冷静に観察して、その人種差別意識や、老獪な残忍さをいやと言う程知り、それまでの日本のインテリが持っていた、「憧れの西洋」的発想の修正をせまられました。

たとえば、イギリス人は誰も日本人と直接話そうとしない、イギリス人の女性兵士は、日本軍捕虜がそばにいても、平気で全裸でいる、なぜかというと日本人は動物と同じだから、「家畜」に裸を見られても恥ずかしくないのだと。

また、食事に出て来る米の品質があまりにひどいので、軍の上の人を通じて英軍にかけあってもらった所、「あの米は、家畜の餌として使用しているが、なんら問題はない」という答えがかえってきたとか。。。

中で、気さくに日本人とも話そうとした人が一人だけいて、その人はアメリカに長く住んでいたらしいということでした。会田さんの観察では、イギリス人やフランス人の持つ「老獪さ」というものが、西洋文化の裏の面として歴然としてあるということです。(ちなみに、イギリスの人種差別は私自身も経験したことがあります)

その他、日本人には好意的だったインド兵、ビルマの人たちのことも、客観的にたくさん書かれています。インド兵とビルマ人は、仲が悪かったそうですが。。。

会田さんは、歴史的に牧畜の文化をもつ白人が、捕虜を管理し、少ない食事(餌)で、最大限に働かせる、その合理的な考え方を、歴史学者として冷静に観察して分析しています。有色人種=家畜と同等、という意識を明らかにもっている彼らですが、怪我や病気をした時は、日本軍よりも手厚く手当をしてくれたし、殴る、蹴るなどの無駄な暴力はいっさいふるわなかったそうです。また、イギリス人の中の「階級」が、見た目でわかる程だということも書いています。

先週、IMF(国際通貨基金:先進国、おもに白人の国がお金出し合って作った信用組合みたいなもので、お金が足りなくなった国にお金を貸して助けたりする機能があります。今まで白人の国が中心だったため、アジアなどの国の出資比率が高くなることを警戒していたようですが、中国などが経済成長して、そんなことも言ってられなくなってきつつあるそうです)が日本に消費税を上げるべきだという提言をしてきたというニュースを読んで、「アーロン収容所」に書かれている合理的なヨーロッパ人というのを思い出してしまいました。

IMFの中心は、 アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスなどの白人の国々ですが、日本はアジアの国としては突出して、現在、出資比率では2位です。麻生首相がサミットだかGナントカかに出かけて、リーマンショック直後だったので、IMFに7兆円とかを寄付?(表向きは出資)したんじゃなかったでしたっけ。それなのに、なんでそんなことIMFに言われなきゃいけないのかな~~と一瞬思ったものの、逆にそうやっていつもお金出す立場の日本だから、なのかもしれないですね。

日本は財政が破綻しそうで、ギリシャみたいになると言わます。けれども、日本は借金が極端に多いとは言え、その借金、つまり国債の引受先は90何%が国内で、自分の国以外に多額のお金を貸してもらってたギリシャの状況とは全然ちがうんじゃないのかな、というのは、私はあまり経済のことを知らないものの、素朴な疑問なんですが。。。それってつまり、奥さんと子どもを外食に連れて行くのに、お父さんはおこづかいを持ってないから、奥さんと子どもたちにお金を借りているのと同じ状態な訳です。お父さんにお金がなくて、奥さんにも子どももお金なくて、しかたないので、近所の鈴木さんからお金を借りて毎日レストランに食べに行っているような状態とは全然その深刻さが違うと思うのですが。。。

でももちろん、だんだん奥さんと子どもにもお金がなくなりそうなので、お父さんはこのままで行くと近所の鈴木さんに借りにいかないといけなくなりそうだから大変だ!というのが今の日本の状況なわけですよね。それは主婦感覚からいっても、確かに危機的状況ではあります。

ギリシャは、お父さんにも奥さんにも子どもにもお金はないけど、近所の鈴木さんや、佐々木さんや、田中さんたちが競うようにお金を貸してくれてしまったおかげで、返せる範囲以上に借りて贅沢しすぎて(住宅バブルとか)みんなにお金返せなくなって、お金貸した人もお金が返って来ないので家計に影響して困ってしまったという状況な訳です。

本当は、日本よりもイギリスなどの方がさらにギリシャに近いのでは?そのような状況で、この前のG20で、各国が、財政を建て直しましょうという相談をして、共通の目標を設定したんだけれども、日本は例外になれました。それは、上のように借金が多いとはいえ、その性質が国内的なものだから。他の国は、たとえばドイツでも、ドイツ国債の半分は他国が買っている状態、つまり半分は国外の人にお金借りてる状態なわけなのですから。。。

余談ながら、そのG20で例外になったというニュースを朝日新聞と読売新聞のネットニュースで読んで、論調が「疎外された」「孤立した」という感じだったのが不思議でした。借金多い国の人たちが集まって共同目標作ってお互い監視し合うのを、日本だけ入らなくて良かったのをよろこばないで、どうして「孤立」「疎外」っていうネガティブな言葉になるのかなー?お互い借金の持ち合いをしてる国々は、いざというとき助け合うから?でも、日本は、IMFにもいっぱい出資してるんだから、いざというときは、IMFに対して、(焼け石に水でも)お金出して、って強気で言う権利くらいあるはずです。日本だけ、独自の道があってもいいのではないでしょうか。

そしてIMFに「消費税上げた方がいいんじゃないスか?」って言われて、IMFが日本のためを思って言ってくれたなんて 勘違いしそうになりますが、そんなはずは絶対ないわけです。IMFはただ、日本は増税でも何でもして、IMFにまたお金を出して欲しいから言ってるし、世界2位とか、中国に抜かれて3位になるとしても、そういう規模の日本経済が破綻したら、やっぱり世界中に影響を与えてしまいますから、そういうことを真剣に心配しているだけで、日本人の生活を心配して言ってる訳ではないのです。

そして西洋の人というのは、別にそう思って言ってるということを、隠したりしないはずだと思います。

自分達の利益になることを主張するのは理にかなっていて、それは恥ずかしいことでも何でもない、というのが、「アーロン収容所」にも書かれている西洋文化の「合理性」なのじゃないかな、と思うのです。自分たちの利益だけを最優先に主張するのを「恥ずかしい」と感じる日本の美意識は、悲しいけれども、そこで少し弱さにつながってしまうのかな、とも思います。

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