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* ブダペストのアンティークリネン

2014/11/23 | Filed under リネン | Tags , , , , .

ハンガリーの首都、ブダペストの中心地、ハンガリー民俗博物館から南に歩いて数分の一角にアンティークショップがたくさん並んでいるのを、現地で教えていただきました。

その中にあるAnnaさんのお店は、アンティークリネンのコレクションが膨大にあるお店です。

ハンガリーという国は、古くはフン族というアジア系の遊牧民が侵入してきたり、一時はオスマントルコの勢力下に置かれたりなど、東方の影響も強い中でも、17世紀ごろからはオーストリア=ハンガリー帝国としてハプスブルグ家の統治されていたと読みました。さらにナチスドイツに占領され、そのあとはソ連の勢力圏内に入り、共産主義政権ができて、、、一回読んだだけではとても覚えられないくらい、複雑な歴史を持っている国です。

それもこれも、ハンガリーの位置しているカラパチア盆地という広い平原に、四方八方から、いろんな人たちが侵入してくるというめぐり合わせのためかもしれません。

それでも20世紀のはじめごろまで、ハプスブルグ王朝の国だったこともあり、首都ブダペストは華麗で荘厳な建物があちらこちらにあり、町に並ぶ建物もどれもこれも美しく、美しいヨーロッパの古い町という雰囲気です。こんな美しい町に共産主義の時代があったなんて、想像できないような気がしました。

そのとき、店内でアンティークリネンを選びながら、ふと頭の中にそういうことが浮かび、レジのテーブルに座っている女性にお聞きしてみたくなったのが、Annaさんとお話するきっかけになりました。

「共産主義の時代には、こういうお店はブダペストにあったんでしょうか?」

と聞くと、

「いえ、もちろんありませんでしたよ。私は、1997年にこの店をはじめました」

というお答え。つまり、そこに座っていたAnnaさんが、店主であることを知りました。

Annaさんは、トランシルバニアの出身だそうです。年齢は、今60歳くらいの世代の方でしょうか。トランシルバニアと言えば、吸血鬼ドラキュラのいたところとして有名で、たしかルーマニアなのでは?と思いますが、民俗文化的には、トランシルバニアもハンガリー(マジャール)の一部だそうです。

さらにAnnaさんはつづけて、

「わたしの若い頃、トランシルバニアは、チャウチェスク独裁政権の本当に恐ろしい時代でした。そのとき、友人が、ハンガリーかドイツに移住するようにすすめてくれたのです。それでブダペストに来て、ここで結婚し家庭をもち子供も育てました。チャウチェスク政権が終わってからやっと、自由にトランシルバニアに帰れるようになったんですよ。今も、父親がトランシルバニアに住んでいるし、3ヶ月に一回は帰ります。トランシルバニアの自然と、素朴でやさしい故郷の人たちに会って、リフレッシュされるんです。」

トランシルバニアの刺繍は独特の赤い刺繍ですが、そのほかのハンガリーの各地に、すこしずつちがう、カラフルな刺繍があります。

ハンガリーのフォークロアミュージアムでちょっと学んでみたところでは、

今私たちが「ハンガリー風の刺繍」と思って眺めている、こういった一連の刺繍は、日本でいえば藍染、刺し子のように、農村の人たちの手による庶民文化として1850年代頃以降に急速に発達したものだそうです。日本でいうと、江戸時代の末期、幕末に入る頃。日本でも大きな体制変化があったわけですが、ハンガリー、カラパチア盆地周辺でも「農奴解放」があり、その後農民の中でも富を蓄える人が出たりなどする一方で、農村での文化も一気に花開いたということのようです。

Annaさんのお店の中には、独特のトランシルバニアをはじめハンガリー独特の刺繍リネンのほか、いわゆる「ホワイトワーク」、白い薄手のリネンに同じ白い糸で、繊細な刺繍を施したものもたくさんありました。こういった白いものは、昔、オーストリア=ハンガリー帝国の時代に王侯貴族に類する人たちを中心に使われていたものなのかな、と思いました。

これらのアンティークのリネンは、それぞれのおうちで古いものを処分するときに行って、直接買い取ってくることが多いとのこと。京都の骨董商の世界と同じみたいです。

「買い取った古いリネンを、きれいに洗濯して、アイロンかけて、必要なら繕って、そしてお店に並べます。

この古いアンティークのリネンは手織りで、手刺繍でしょう?この布に触れていると、人々がそうやって一つ一つ機や針を動かして作っているところを感じて、とても愛しく思えてしかたないんですよ」

Annaさんはとてもほんわかとした、手仕事の温かみを愛しているというイメージにぴったりのやさしい方でした。それと同時に、強い望郷の思いを抱いておられることも伝わってきました。

最後に、Annaさんは、こういうふうにおっしゃっていました。

「だから、私は、長年の間二重生活をしてきたということになりますね。ブダペストに暮らしているけど、心はいつもトランシルバニアにあるのです。」

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